自分の子どもが今まで聞いたこともない病気だといわれたら、まして原因もわからず、治療法もない病気だと説明されたら、両親の心配は計り知れないものがあるでしょう。軟骨無形成症(軟骨異栄養症という場合もある)も、ほんの20年ほど前まではこうした病気の一つでした。
そんななか、同じ病院に通う数人の親たちが集まって、この病気について勉強し、さまざまな困難に対応したいという思いから、昭和57年(1982年)9月につくしの会は発足しました。これには子どもたちの主治医の先生も、強力に後押ししてくださいました。つくしの会の名称には、春の日差しを浴びてすくすく育つツクシの姿になぞらえて、子どもたちもすくすく育ってほしいという親の願いが込められています。
それまで何の経験もなかった親たちは、何もかもが暗中模索のなかで、試行錯誤しながら活動を開始しました。まず新聞紙上でのアピールから始まり、同じ病気の方々と連携を取り合ったり、この病気に関連する各分野の専門の先生を総会にお招きして講演していただいたり、さまざまな情報を収集したりしました。あるときはソ連(現ロシア)に新しい治療法があると聞き、大使館を訪問して詳しく教えていただくなど、役員たちは事あるごとに"子どもたちのために"を合言葉に活動してきました。
また治療に関する取り組みばかりではなく、研究班の設立や医療費公費負担の延長、助成制度の法制化などを求めた署名を集め、厚生省(現厚生労働省)への陳情や国会請願を行うなど、行政の支援を求める活動などにも取り組みました。
その甲斐があってか、会の発足当時は原因も不明で治療法もなかったこの病気も、近年の急速な医学の進歩に加えてこの病気に取り組む医師のご尽力などにより研究も進み、原因とされる遺伝子変異も特定され、骨延長術や成長ホルモン治療などの対症療法も確立されつつあります。また制度面でも、18歳未満を対象とした小児慢性特定疾患(小慢)の適用年齢がこの病気では20歳未満まで延長され、小慢の制度そのものも法制化されるなど、一定の前進をみることができました。
しかし対症療法には限界があり、近い将来、根治療法が確立される状況にもありません。さらに、水頭症や睡眠時無呼吸症、脊柱管狭窄症などの生命や身体に重大な影響を及ぼす症状をはじめ、O脚や慢性の中耳炎、腰痛やひざの痛みなど、多くの合併症が起こり得ます。そのなかには、近年やっとこの病気との関連性が指摘された症状もあり、当事者は、こうしたさまざまな合併症の不安を抱えて生活しています。
また医療面以外にも、低身長に加えて手足の短い特徴的な体型から、スーパーでの買い物や銀行等でのタッチパネルの操作、電車・バス等での移動など、日常生活を営む上で不自由な点もたくさんあります。この病気はその外見から障害者扱いされることがしばしばありますが、制度上は低身長と手足の短縮だけでは障害者には該当しないとされています。
そのため障害者手帳を交付されていない当事者も多く、外見から障害者扱いされる社会状況とのギャップで苦労させられる問題や、入学・就職等への対応、ジロジロみられることなどによる精神面のケアなど、社会生活を営む上で直面する多様な問題にも取り組む必要があり、課題は多岐にわたっています。
会の発足当時からみればずいぶん改善されたとはいえ、健常者に対応した社会システムのなかで生活していくためには障壁も多く、この病気を取り巻く社会環境は、決して良好だとはいえません。
難病や障害の問題には、治療やリハビリ、補助具の使用といった個別的な側面と、社会的自立を図るための制度や社会システムの確立、偏見や差別の解消といった社会的な側面とがあります。このうち社会的な問題を解決するためには社会全体での対応が必要ですが、問題提起をしていくのはあくまで当事者自身であり、当事者自身の積極的な取り組みが不可欠なことはいうまでもありません。この病気の社会的諸問題の解消を図るためにも、親を含めた当事者の集まりであるこの会の役割は、大きいものがあります。
その役割を果たすため、会員一人ひとりの体験や病気に対する思いを集めて、個別の意見や体験をより普遍的なものに、全会員に役立つ情報へと展開し、社会に発信していくことが、会の活動の一つだと考えています。
主治医を囲んだ数人の親たちの勉強会から生まれたつくしの会も、その後活動の輪は大きく広がり、全国で500家族近い会員が活動に参加するようになりました。
本部では、会長を中心に役員会で検討を重ねながら、調査部・渉外部・広報部や事務局等がそれぞれ役割を分担し、またお互いに補い合って活動を進めています。また当事者も本部の役員や支部長等として積極的に活動にかかわっていて、当事者と家族それぞれの立場から意見を出し合い、幅広い意見が反映されるよう心がけて活動しています。
さらに、総会などで親しくなった青年当事者が中心になり、仕事や結婚のこと、将来の問題などについて話し合い、親睦を深めるなど、自発的な当事者の集まりとして活動しています。
またこれと並行して、各県・地域で支部を結成し、支部会や勉強会なども開催しています。平成22年現在、北海道・茨城・栃木・群馬・埼玉・千葉・東京・神奈川・静岡・愛知・関西・中国・島根・四国・福岡・宮崎・沖縄の17支部があり、さらに数県で支部結成の準備が進められるなど、各地で地域の実情にあわせた活動をしています。
つくしの会は、患者と家族の視点から軟骨無形成症の現実と未来を考え、
などの事項に取り組み、全国の会員がお互い連携を取りながら活動を続けています。
会の主な活動として、毎年春に開催する全国総会では各分野の専門医などによるご講演のほか、会の活動方針の決定や年代・テーマに合わせた分科会等で意見交換や交流なども行っています。また夏にはサマーキャンプを開き、普段会えない全国の会員同士が宿泊や食事をともにして、家族ぐるみで親睦を深めています。
他にも、会報の発行や支部会の開催、電話相談の実施などを通して全国に在住する会員と情報交換を行うとともに、DVDや絵本などを使った病気に関する啓蒙活動なども行っています。また役員会を中心として、必要に応じて調査活動や署名・請願活動を行うなど、この病気に関する諸問題に対応すべく、活動を展開しています。
また、難病のこども支援全国ネットワークや日本児童家庭文化協会、難病の子供を持つ親の会連絡会などの小児難病の関連団体とも連携を取り、病気の違いを超えたさまざまな活動などにも取り組んでいます。
この病気には現在、骨延長術などの対症療法が行われていますが、会としては、それらを受けるかどうかはあくまで当事者自身の問題だと考えています。対症療法について考える際に果たす会の役割は、同じ病気に関わりを持つ者として、より幅広く情報を検討し、体験や意見を交換することによって会員の選択肢を広げ、より冷静な判断を下すための手助けをすることだと考えています。
この病気の捉え方や対症療法に対する考え方の違い、障害者手帳の有無などと関係なく、遺伝子の変異を原因とするこの病気の問題には、すべての方に共通するものも少なくありません。また、さまざまな合併症や将来への不安など、ひとりで抱えていくにはあまりにも大きい問題も存在します。これらの諸問題に対応するためにも、同じ病気に関係する者同士がともに支えあう"共助"の観点から活動を進めていくことが、重要だと考えています。
また、この病気と類似したさらに希少な骨の病気の方も会に参加していて、日常生活に関することなどの共通する課題に、ともに取り組んでいます。
会は現在、これまで積み重ねてきた経験を生かして、軟骨無形成症や類似した骨系統疾患の当事者と家族の視点からこれらの病気を取り巻く諸問題に取り組み、疾患当事者の生涯にわたる共助を目指して、さまざまな活動を行っています。つくしの会は今後とも、疾患当事者一人ひとりの個性に合った生き方ができるよう、さまざまな角度から活動を展開していきたいと考えています。